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ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜

by 蔵月古書店

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 獅子王を手にする黒鵺の眼前まで花魄が迫り寄る。巨大な口顎が上下に開かれる。それは人を一飲みしてしまえる程に巨大だった。その口の中には刃と化した歯が並んでいた。
 その光景を路地から顔だけ出した彼女は見ていた。その光景に目を閉じたくなる。
 しかし。
 まさに一閃。
 青く光る軌跡を残しながら、獅子王が横薙ぎにされた。
 ただの一撃。
 それだけで花魄の体は上下に分断された。
 その巨体が崩れ落ちる。
 黒鵺は空を見上げた。
 ドシャ降りではないが、雨は確かに降っている。そして黒鵺は上下に分断された花魄に視線を向けた。
 その花魄の体。その体から無数の根が伸びる。植物の根が至る所から生え、そして雨水を吸おうと根を伸ばしているのだ。
 花魄は植物の精、水がある限り何度も甦る。
 それを倒す方法はただ一つ。
 何か小さく黒鵺は呟いた。その瞬間。
 獅子王の光る刀身。その光が青白い雷へと変化する。バチッバチッと電撃の爆ぜる音。
 そして雷は花魄の体を撃つ。破裂音。さらに雷から発生する高温に花魄の体が燃え上がる。
 花魄を倒す方法ははただ一つ。それは植物だけに焼いてしまう事。
 花魄の二つに分かれた体がゴロゴロと転がる。まるで降る雨と水溜りで、その炎を消そうかとするように。
 ただ獅子王の力から生まれた炎、それが雨などで消える事は無い。
 やがて炎に包まれた花魄の体は完全な灰へと変わるのだった。
 その光景を彼女はただただ呆然と眺めていた。彼女の知る常識からは遠く離れたその光景を。

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