ぶっくさーばんと! 〜沙夜子のおつかい〜
by 蔵月古書店
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「おはよ、沙夜子ちゃん。今日は早いのね」
がっくりしている私に、ひとりの女の子が話しかけてきた。
この町で呉服問屋を勤めている『御色屋(ごしきや)』さんところのひとり娘で、名前は由比(ゆい)ちゃん。歳は私より五歳年下なのに、私を沙夜子ちゃんと呼んでいる。いつもきれいな着物を着ていて、誰が見ても良家のお嬢さま。大きくなったら帝都の学院に通うのだと、由比ちゃんはいつも自慢している。
今日は細かい模様が刺繍された赤い着物姿をしており、まるでお人形さんのようにかわいらしかった。
ただ、心なし目の下にくまができているのが気になる。身体の調子でも悪いのかな。
「由比ちゃんも早いのね」
「うん! 今日はね、お母さまと映写館に連れてってもらうの。楽しみで早く起きちゃった、えへへ」
「へえ、いいな……あら、そちらはどなた?」
「え?」
ふと、私は由比ちゃんの背中に小さな動物がくっついているのを見つける。
しかし、それを指さしても由比ちゃんは意味が分からないのか、頭にクエスチョンマークを掲げるだけだった。
「ほら、でもそこに――」
そう言いかけてはっとする。
背中にくっついているものを凝視する。それは毛のないしわくちゃの肌をさらしており、身体は骨と皮しか無いくらいにやせ細った動物だった。だけど目はらんらんと輝いていて、獰猛な肉食動物を思わせる。
それは開いた口から黄色く変色した犬歯を剥き出しており、由比ちゃんの首すじに噛みつこうとしていた。
「ゆ、由比ちゃん!?」
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