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ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜

by 蔵月古書店

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 それから数時間後。
「ただいま戻りましたぁ〜」
 春の陽気も麗らかに、と形容してもいいようなどこか間延びした声。
 その声と同時に蔵月古書店の戸は開かれた。
 深い紺色のワンピースに、フリルの付いた白いエプロン。まだ珍しいメイド服に身を包む蔵月沙夜子であった。
 沙夜子は店内に入る。そしてその光景を見て、掛けた眼鏡がズレ落ちる。
「あわっ、あわわわ、こ、これは……な、なんですかこの地獄絵図……」
 その沙夜子の声に答えたのは彼女の頭の上に止まる一羽のカラスだった。
「だいたい想像は付くのじゃが……」
 まるで人のような衣装に身を包み、そして人のように人語を喋る。それがこのカラス、ガァ子であった。
 その黒い羽をパタッと開き、沙夜子の頭から飛び上がる。
 そのガァ子の足元、よく見れば気付くだろう。その足が三本ある事に。
 ガァ子は店の奥へと飛び進み、そして声を上げる。
「黒鵺!!ちょっと出てくるのじゃ!!」
 その声に店を奥から出てきたのは、さっきの青年だった。その名を黒鵺。
「あ、あの、く、黒鵺さん、こ、これってどうなっているんですか……?」
 店の中がここだけ直下型地震をくらったように荒れ散らかっていた。店内にある本棚が全て倒れ、足の踏み場がない程に本が散乱している。これほど散らかった古本屋をお目に掛かる事はほぼ無いだろう。
「……」

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