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ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜

by 蔵月古書店

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 本を選ぶ彼女。
 この少ない本の中から選ぶものがあるのだろうか……それとも黒鵺に用があるのだろうか……
 沙夜子は彼女の隣に並ぶ。
「あの……」
「はい?」
「えっと……黒鵺さんに御用ですか?」
「……そうですね……でも黒鵺さんだけにって事じゃなくて。助けて頂いたので、お礼を兼ねて来たんですよ」
 少しだけ考えて、沙夜子は言う。
「あの……怖くはないですか?」
「ん?」
「……黒鵺さん。黒鵺さんの姿を見たんですよね?」
「……ええ、見ましたけど」
「けど?」
「助けてもらいましたから」
 黒鵺がどんな姿だろうが、彼女は黒鵺を怖がっていない。黒鵺の本質を見抜いたからなのかも知れない。
 笑顔で、彼女はそう答えた。
 晴れやかな、見ている者でさえ、つられて微笑んでしまいそうな笑みだった。
 だがその笑顔を見て沙夜子は困ったような苦笑いを浮かべるのだった。どこか心の底からは一緒に微笑む事が出来ない。
 ただ沙夜子自身は、それが何故なのか分からないのだった。
 その姿を遠めに見て、ガァ子は一言こう呟く。
「まったく……自分の事ながら鈍い奴なのじゃ」
 そして大きくため息を吐いた。
「……どういう事だ?」
「まったくお前もなのじゃ」
 そう言ってガァ子は黒鵺を呆れたように見る。
「……」
 もう一人ここに鈍い男が一人。
 それが黒鵺なのであった。


END

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