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ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜

by 蔵月古書店

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「……これは……」
 黒鵺は感じていた。
 体の中で膨れ上がる力。そして何重にも掛けられた封印が一つずつ解かれていく。これは沙夜子が遠野霊異記を、それも『鵺』を読んでいる。
 分断された空間、なのにその沙夜子の力がここまで届いている。
 黒鵺が思っていたより、沙夜子が成長しているようだった。
「あの……」
 それは彼女の声。
「どうかしたのか?」
「いえ、今、笑っていたような気がしたので……」
 しかしそこにあるのは黒鵺の無表情だけだった。笑って見えたのは気のせいだったのかも知れない……
「……今から花魄を一気に片付ける」
「一気にですか?」
「ああ……少し驚くかも知れないが心配するな」
 と言い、黒鵺は彼女が離れた。そして。
 大気が震えた。
 黒鵺の体から力が噴出し、それは渦となり黒鵺の体を包み込むのだった。
 激しい渦の流れに、彼女はその目を瞑る。
 そして渦の中、黒鵺の体が急速に変化していく。
 巨大な獣、この世界には存在する事の無い幻獣。
 人ではない面。それは鬼に近い。
 虎のような胴体に、鋭い爪の四肢を持つ。その背には羽を持ち、尾は蛇。
 そしてその大きさは30メートルを優に越えていた。
 そんな物の怪が急に目の前に現れたのだ。目を開けて、彼女は腰を抜かして、その場にヘタリ込んだ。
「あ、あ……」
 これが黒鵺の本当の姿。
 鵺である。

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