ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜
by 蔵月古書店
前へ [32ページ] 次へ
「……これは……」
黒鵺は感じていた。
体の中で膨れ上がる力。そして何重にも掛けられた封印が一つずつ解かれていく。これは沙夜子が遠野霊異記を、それも『鵺』を読んでいる。
分断された空間、なのにその沙夜子の力がここまで届いている。
黒鵺が思っていたより、沙夜子が成長しているようだった。
「あの……」
それは彼女の声。
「どうかしたのか?」
「いえ、今、笑っていたような気がしたので……」
しかしそこにあるのは黒鵺の無表情だけだった。笑って見えたのは気のせいだったのかも知れない……
「……今から花魄を一気に片付ける」
「一気にですか?」
「ああ……少し驚くかも知れないが心配するな」
と言い、黒鵺は彼女が離れた。そして。
大気が震えた。
黒鵺の体から力が噴出し、それは渦となり黒鵺の体を包み込むのだった。
激しい渦の流れに、彼女はその目を瞑る。
そして渦の中、黒鵺の体が急速に変化していく。
巨大な獣、この世界には存在する事の無い幻獣。
人ではない面。それは鬼に近い。
虎のような胴体に、鋭い爪の四肢を持つ。その背には羽を持ち、尾は蛇。
そしてその大きさは30メートルを優に越えていた。
そんな物の怪が急に目の前に現れたのだ。目を開けて、彼女は腰を抜かして、その場にヘタリ込んだ。
「あ、あ……」
これが黒鵺の本当の姿。
鵺である。
前へ [32ページ] 次へ
※ 途中のページでケータイの「お気に入り」に登録すると、本にしおりをはさむように読んだページが保存できます。
Copyright 2006 (c) Assem-blage, Kirio Yamamoto, Bokuboku, and Kuratsuki-Koshoten
ここに掲載されている全ての文章および画像その他の著作権は、文章および画像その他の提供者にあります。
著作権は各国で制定されている著作権法により保護されており、許可無く転載・複製行為を行う事は禁止されています。