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ぶっくさーばんと! 〜花魄(かはく)〜

by 蔵月古書店

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「聞きたい事がある」
「え、あ、はい、何でしょう?」
 彼女は違和感を感じた。空気が冷たい。そんな事があるはずないのに店内の気温が一気に下がったように感じる。そして自分を見る黒鵺の目。それは自分を見ていない。
「本を濡らしたのか?」
 黒鵺と花魄の目が合う。互いが互いを観察する。
 一瞬、黒鵺が何を言っているか分からなかった。ただすぐに彼女は自分の持つ本だと考える。
「いえ、濡らしていません。価値のある本ですし、お返ししようと思っていたので、そんな事は……」
「いや、すまない。そうじゃないんだ。その本ではなく、最近でもいいが、濡らしてしまった本が無いかと……」
 花魄……なぜ『花魄』という名なのか。『魄』は魂魄の事であり、もちろん人の魂を指している。それは人の情念から生まれるものだからである。
 そして『花』は植物である事を指し、同時に木の精の美しい容姿を指していた。そしてもう一つの意味……『花』の中にある『化』の文字。
 花魄は『化物』の姿へと『化ける』のだ。
 黒鵺がただの人間ではない……そして黒鵺が自分達の目的を阻む存在である。その事を理解したからだろうか。

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