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ぶっくさーばんと! 〜沙夜子のおつかい〜

by 蔵月古書店

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 私は建物の間を走り抜ける。時折置いてあるゴミ袋や木箱を飛び越えて、壁から出ていた釘に袖を引っかけるが、そんなことに構っていられなかった。懸命に遠野霊異記に書いてある一節に目を通す。詞は強力な魔物に比べて短いものだった。
「きゃっ、熱っ!?」
 追いかけてくる餓鬼が吐いた唾が、壁を跳ね返って私の腕に落ちる。しゅうと音を立て肌を焼く感触に、私は思わず声をあげる。すぐに袖で拭いたものの、その火傷はしばらく残りそうだった。
「お、乙女のお肌を……許しませんっ!」
 びたっと立ち止まり、きびすを返して餓鬼を指さす。
 しかし餓鬼が私の怒号に反応するどころか、私が立ち止まったことに嬉々とした声をあげる。勝利を確信した表情で足を踏むと、こっちに向かって飛びかかってきた。
「あ、あれ……きゃああっ!!!」
 ――だめ、やられるっ!?
 もうどうすることもできなくて、私は遠野霊異記を頭の上に掲げてしゃがむ。
 それでどうにかなるとは思っていないけど、何も考えられない以上、そうするしか浮かばなかった。
 ばしぃぃっ!!
 その時、頭の上にある遠野霊異記が身震いしたような振動と共に、何かが爆発したような音がした。
 その直後、餓鬼が悲鳴をあげながら、ぽてりと私の目の前にぶっ倒れてしまった。

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